つづきのつづき

kokochi sun3

新しい「美しい」の探求

IMG_9225.jpg

 神戸市須磨区に工房兼ショップを構える kokochi sun3 は9年目の年を迎えるハンドメイドシューズ・ブランド。一枚の革が靴になるまでおよそ1ヶ月、靴が出来上がるまでの工程の数は200を超える。気が遠くなるほどの作業の数、それでもハンドメイドの靴にこだわり続けるのは、量産の靴にはない素朴で温かみのある靴を作りたいから。kokochi sun3 の靴は機械には頼らず工程のほとんどを手作業で行っている。

 直営店でのオーダーの仕方はこう。気に入ったデザインが見つかれば足のサイズを計り、どのサイズがフィットしているかを調べる。その後、革の色や素材などを決定し約2ヶ月後に納品となる。足の計測時にもし木型と足があっていない場合は足に合うように木型を修正し、それでも合わなければオーダーを断ることもある。お気に入りの靴を何年も何十年も履き続けるには、木型と足があっていることと、それに耐えうる革の選定ができていること。そして修理ができる靴の仕組みになっているかが重要なポイントだ。

 一枚の革で底面からすっぽりと覆われたデザインの靴。お椀型に形成された革底。凸凹とした形状をしたヒールの側面。様々な形で表現される kokochi sun3 の一見奇抜にも見える靴たちは、足を守る道具としての機能を守りつつも、新しい「美しい」の探求の証である。

LinkIconkokochi sun3


gL-Leather

オールドルーキー・大工から革職人へ

IMG_9886 (1).jpg

 手縫い革職人・兵藤惣太郎48歳、元大工。40歳の時に立ち寄った、とある革工房に置かれていた鉋や刃物。まるで大工道具のようなそれに親近感を感じたのが革職人になるきっかけだったという。大柄ながら物腰は柔らかく、小声ながらよく通る声。そのアンビバレントな様が彼の魅力なのだと思った。

 来年で9年を迎える彼の革職人としてのキャリアは、若い頃から職人として働いている同世代と比べると浅い。しかしその差を微塵も感じさせることのない業やこだわりの数々は、実際に長財布を手に取ってみて作品の中に随所にちりばめられていることが分かった。貼り合わす革に塗るゴム糊の厚み、縫い戻りしないよう糸に塗られた蜜蝋と松ヤニの分量など、諸々全てが機能と美しさへの探求の堆積であり、またその業の選択が彼のパーソナリティーとなっている。

 ブランドとして今後どうなりたいかの問いに彼はこう答える。久しぶりに会った友達に作品を見せたときに「お前らしいの」と言ってもらえるブランドでありたいと。愛媛県松山市に工房を構える gL-Leather。革職人・兵藤惣太郎によって作られた革小物は全て手縫いで仕立てられたもの。主にイタリアンレザーを使用して作られた財布や鞄たち。その表情はまるで彼自身を映す鏡のようだと思った。

LinkIcongL-Leather

木ものNAKAYA

木々の生の証・生木のランプシェード

IMG_9516.jpg

 木工職人・中矢嘉貴43歳。家具を製作していた彼はある時、生木で器を作る技法を知る。通常木工の一般的な技法は乾燥木を加工する。しかし彼の場合は樹液を多く含んだ生木を加工後、約2週間乾燥させる。水分が抜ける過程で様々な形に変化するそれらに同じ物は二つとしてなく、その独特に変化した様はプリミティブで美しい。

 静岡県富士宮市、富士山の麓にある「木(こ)ものNAKAYA」。工房に集められてくる木々は建築材にするには細く弱いもの。湿気を帯びたそれらは乾燥させ薪になるのだそう。「薪になって燃えてしまうより物になって残ってくれたら。」 噂を聞きつけた人々が、中途半端な大きさの建築材になり難い丸太を持ち込むようになり、たちまち家具を作っている工房のスペースは生木で埋まってしまった。

 「自分には制御ができない、翻弄される。」と乾燥させ出来上がった様々な形に変化した作品たちを眺めながら話す彼の口調。一見ネガティブに感じるその言葉の奥に、彼の作品や生木に対する愛情を感じた。直立した木、曲がった木、また方々に枝分かれした木。富士山麓に根を張り生きてきた「生」の証を、銘々に形を変えた器やランプシェードに見たような気がして、大切に使っていきたいと心から思った。

LinkIcon木ものNAKAYA

Mustard

とある口下手な男が提案するセレクトのかたち

10626761_921285341283913_1803388312306297529_n.jpg

 京都市四条烏丸にあるセレクトショップ・Mustard。12年のキャリアを持つ同店は、自らの手で作ったバッグやストールを2010年から製作販売している。オーナーの高井氏にその理由を聞いてみると「自作のものは店内により溶け・・・」といったまま言葉に詰まってしまった。この男、相当の口下手である。

 彼のぶっきらぼうにもみえる佇まいとは裏腹に、店内はミニマルかつ美しく、まるでギャラリーに来たような感覚を受ける。一階と三階の販売スペースに置かれた手織りの生地で仕立てられたバッグは、空気をたくさん孕むよう縮絨ウールを使用した。様々な色が織りなすブロックチェックのそれは肌触りがよく暖かい。そして空間と絶妙な均衡を保っていて思わずうっとりとしてしまった。

 ショップ定員として必要な能力である「接客」を器用にこなすことのできない口下手な男がいる店。彼は自らの手で作品や空間を作ることで足りない言葉を埋めていた。

LinkIconMustard

ニワカヤマ工場

阿吽の呼吸

IMG_9364.jpg

 和歌山県の藍染職人・澤口隼人(ニワカヤマ工場)。山に覆われ近くには川が流れ、鳥や虫たちが鳴いている。同県日高郡の古い2階建ての民家が彼の工房。藍釜がある納屋の扉を開けるとアンモニア臭がツンと鼻に着く。藍釜の木蓋を開けると、発酵した濃い紫色の液体が釜の中でぷくぷくと音を立てていた。

 取材にあたり何か染めるものがあればと持参したレザーのパンプス。染めむらをなくすため、お湯と灰汁(あく)を混ぜたものに漬けた後、いよいよ藍で染める。数分間藍に浸した後取りだし、空気中の酸素により酸化させ色を定着させる。1回の染色で得られる色は薄く、これを何度も繰り返すことで理想の色に近づけていくのだとか。

 入れて揉んでるだけなんですけどねと、釜の中でパンプスを静かに揺らす。藍釜に浸かった指先から手首までの間は藍色に染まっている。素手で藍や染めるものに触れることで、その状態と染まり具合を感じることができると澤口氏は言う。毎日異なる藍の状態。元気がなくなってくれば発酵を促すために日本酒を入れ、また元気すぎると早く腐敗してしまうので、成長を抑えるため石灰を混ぜる。阿吽の呼吸。彼の藍に寄り添う姿を見ていると、そんな言葉が頭を満たして心が温かくなった。

LinkIconニワカヤマ工場

動画「ストレンジピープル」配信中です

「つづきのつづき展」に出展する5組の作り手の動画のまとめページです。作品はもちろん、その人柄もフォーカスした動画をお楽しみください。

お持ちのシャツやカットソーを藍染します

期間中限定でお持ちのシャツやカットソーなどの藍染めを賜ります。(詳細は追ってご報告させていただきます)